AKAGI Rails

鉄道模型シミュレーターで遊んでいたはずが、気づいたらPythonなども。

自作車両107系 製作後記

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先日リリースした自作車両の107系であるが,足掛けX年の歳月がかかったものの,さまざまな自作車両製作上のノウハウが得られたという点では時間を掛けた甲斐があったかなと,今となっては思っている。

対象車両の選定について

この自作車両の初回作のプロジェクトは,VRM Cloudのかなり初期から自分の中では存在していた。当初,複数の候補があったのだ(701系や,新潟トランシス製の気動車など)が,直流電車であること,クハとクモハの2車種だけであること,比較的地元の近くを走っていることから107系に決定した。

自作車両で作ってみたいなと思う車両は当然いくつもあるのだが,やはり圧倒的に電車がそのなかで多いことを考えるとパンタグラフ工程をいつかは克服せねばならないので,はじめから甘んじずに,気動車ではなく電車を選ぶこととなった。701系は残念ながら交流電車=パンタまわりが直流車より相当複雑なので候補から外れることになった。また,701系は製造時期による形態差がどうやら107系より多い(のではないか)ということでも敬遠の原因になった。

製作上のテーマや制約について

モデルの仕様は,はじめから「車内なし ライト・パンタは動作あり」で考えていた。またポリゴン数のおおまかな目標として,1両5000ポリゴンを目標とした。VRM2最後期のEF58 (1号編成)が1両2000ポリゴンレベルのモデルであったことをベースに,PC性能の進化と,色の塗り分けをテクスチャリングではなくポリゴンの分割でやることを前提に2倍強に盛った。が,公式よりも少ないであろう水準に抑えた。(公式の車両は1両あたりだいたい1万~2万じゃないかと想像している。肌感覚的に。)

おそらく,I.MAGICの中の人は,製品の品質保証という意味で,本格的なゲーミングマシンじゃなくてもまあまあ動いてくれるように腐心されている。ビュワーのプログラム本体もそうだが,当然モデルもローポリゴンなモデルを相当意識されていて,ビュワーの高速動作を実現している(のだと私は感じている)。

そういうI.MAGICの,良く言えばLEAN(無駄のない),悪く言えばケチな,そういう設計思想を尊敬している部分があるので,このプロジェクトの絶対的な制約として「I.MAGICを超えるものは作らない」ということを,内心に標榜した。そういう5000ポリゴン縛りである。(で,結果的にだいたいそのくらいのポリゴン数に収まった。ちょっと溢れたけど1万にはいっていない。)

使用できるテクスチャサイズに512x256というかなりシビアな制約が課されていて,これだけはどうにも動かすことができない。対して,フリーの3D鉄道ゲームで,車両の自作が可能なものがいくつかあって,見目麗しくて羨ましくなることもあるのだが,そういうものはローポリゴンを標榜していても,使用するUVテクスチャがものすごい大きさだったりして,ビデオメモリを圧迫するのが目に見えているようなものもある。

大きなレイアウトサイズと高速な動作というVRMの長所を脅かさないよう,ローテクスチャだからといってポリゴン化に甘んじない,そういうライバル心むき出しの実装方針を打ち立てたのである。

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資料の収集

モデリングの工程とも関連するが,ドアやマドなど,「穴」っぽいものは写真資料だけでは作りにくい。寸法の入った図面がぜひとも必要だ。鉄道ファン誌のバックナンバーに形式図が乗っているのを発見したので中古で入手した。

いっぽうで写真資料も不可欠である。これは日頃から撮っておくのが望ましいが,主には高崎駅である1日に撮ったものを使った。ネット上の写真も多少参考になるが,解像度が低く,露出やアングル的にも参考になるものを見つけるのはとてもむずかしい。普通の人が撮らないような,ベンチレータとかスカートの裏とかトイレタンクみたいな資料も必要となる。

ツールの選定

107系は,外構の基本構造を作る基本的な工程を,複数のツールや工法を試すことにした。長い目で見て,早くて作りやすく品質の面でも望ましい方法が覚えられたほうがよいからである。ツールの方はMaya2014, Maya2017を試したあとにMetasequoiaに落ち着いた。

Mayaは機能こそ充実しているが充実しすぎていて,VRM車両に使わないツールが多すぎて手に余った。また,ライセンスはアカデミックのものを取得して試したのだが将来的に課金するとしても高すぎたし,参考書の類がどれも高価であった。特にMaya2017は,工程によってはミラーリングの仕様がobj形式と噛み合わなくなることがあり不適合であった。

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結局Metasequoiaが,有償版ライセンスでもMayaの参考書1冊より安くWeb上の参考記事で日本語のものが多く見つかるような状況で安上がりだったし,Mayaと違ってレンダラーやアニメーションのための機能が気にならずポリゴンモデリングに集中できるので好適であった。

Blenderは初期に一度検討したが,インターフェースが手に合わず仮組みも行わなかった。ただし,これも数年前の話であって,現在ではBlenderの現状も様変わりしているような気もするので,改めてもう一度しっかり試したほうがよいと思っている。USO800鉄道氏は自作コンテナの頃からBlenderを愛用しているそうなので,当時から機能の面で不足はないようである。

そういうわけで,何度か(何度も?)試作品を作っては壊し,そのあとでやっとまともにスタートを切ったということになる。

言い忘れたが画像系のツールはPhotoshop一択であった。

公式車両の観察

ポリゴンで作るところとテクスチャで表現するところをどのように棲み分けさせるか,とかは公式車両をビュワーに並べて超ドアップにして観察すると勉強になる。丸い面取りをなめらかにポリゴン化しようとするとものすごくポリゴン数を食ってしまうが,制作過程においては目の前のカドに注目しているのでたくさんのポリゴンを使いたくなってしまうものである。でも公式車両を見ると意外と,少ないポリゴンでギザギザと丸い面取りを表現していても,それほど気にならないもんである。VRM4の0~3号時代のモデルは省ポリゴンで参考になった。

一生懸命作ること

手を動かさなければ絶対に作業は進まない。そう思って,小さい箇所でもちょっとずつ進める。そういうことの積み重ねで全体が進んでいく。(当たり前すぎるが)

次の工程をどこにするか悩んでいる暇でどこでもいいから作り進めたほうが,全体としての進捗につながった。

とはいえ工程計画も大事

なぜなら,ポリゴンモデルは下手をこくとごっそり消して作り直しになったりしかねないので,作業ステップを次に進めることに心理障壁が伴う。後戻りや繰り返しが少なくなるような工程計画が描けていると気が楽になる。よい工程計画は,よい要素作業から成るので,モデリングソフトの各ツールでどんな操作ができるのかを熟知していることが望ましい。(そのためにも試作のステップが役に立つ。試作の段階の多くの失敗は経験のうち。)

台車工程

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細かいところはめんどうくさいので,VRM2やVRM3のペラペラ台車とかBトレインの台車レリーフを参考に,台車の主枠以外のほとんどは一枚ポリゴンにテクスチャを貼って終了にした。台車の主梁など四角いものは一応ポリゴンで作った。

パンタグラフ工程

パンタグラフは複雑な形をしているので,まずはどんな形をしているのかの把握ができていないと手が付かない。しかしよりにもよって資料写真があまりなかった。屋根の上はやはり撮りにくい。

107系はJR化後まもなくの製造だったのでパンタグラフ国鉄時代の設計である。運良くこれの明細図をぜかまし文庫というサイトで入手することができた。この図を見ながらパンタグラフの構造を理解した。明細図ということで棒一本から蝶番の一個まで寸法が分かったこともあり,案外スムーズに進んだ。

明細図なしでパンタグラフをモデル化するのは今後の課題である。

ディテールの追い込み

クーラー,ホロ,床下,ベンチレータ,の順に小物を取り付けていった。クーラーのテクスチャは,実車165系の廃車発生品を流用したのと同様,VRM165系を真上からスクショして切り出すとかいう荒業も使った。床下は正直言って面倒くさいのでほぼテクスチャを貼らず(UVマッピングで焦げ茶色の色だけ当てて)終わりにした。

ディテールは追い込まない,それが早く終わらせるコツだ(ぉぃ。

サウンド

すっかり忘れていていつの間にかJR線から107系も引退してしまった。仕方がないので似たような音を日向車両microのmokoさんに頼みこんで使わせていただいた。

オリジナリティを出す

実在するものを3Dモデルにしているだけなのでオリジナリティもへったくれもないが,多少の遊び心を盛り込みたかったので,ユーザーテクスチャで書換可能なオプションモデルで,引退時のステッカーをはりだせるようにしてみた。ダウンロードしたユーザーもこれを書き換えるといろんな個性を表現できると,そういう具合である。