自作車両PJでなにを考えるべきか
私はこれまでに107系,731系,キハ201系と3車種のVRM自作車両を製作してきました。数は多くありませんが,VRM自作車両の製作PJ(プロジェクト)を計画し遂行していく際に何を考え,実行したかという点を,経験談を踏まえて書き記してみます。
ポリゴンモデルの基本事項
話の前提として3Dポリゴンモデルの基本事項を知っておきましょう。
ポリゴンとは
基本的には、ポリゴンとは3次元仮想空間上の三角形の平面です。ただしVRMでは四角形平面のポリゴンも使えます。
小さなポリゴンの集合で複雑な形も表現します。これがポリゴンモデルの本質です。
少ないポリゴン数で仕上げたモデルを形容して「ローポリゴン(ローポリ)」といいます。逆に、ポリゴン数が多いモデルのことは、「ハイポリゴン(ハイポリ)」と言ったりします。
ポリゴンを細かくすればするほど、複雑な形状を滑らかに細かく表現できますが、ポリゴン1枚1枚を描画する描画負荷が重くのしかかります。ビュワー動作の高速性を保つには、見た目の精巧さのバランスを保った中でローポリに仕上げる技能が必要になります。
スムージングと頂点の法線(ノーマル)
ポリゴンは平面ですが,反射の計算はやや特殊です。
本来は平面の集合であるポリゴンですが,モデルに対してスムージングの設定を有効にすると,ポリゴン同士の交差角が一定以下の境界で,継ぎ目がなく表面がなめらかにつながっているかのように描画されるようになります。ポリゴンの表面自体は幾何的に平らなのですが,光の反射がなめらかな曲面であるかのように計算されるため,スムーズな表面の見た目となります。面取りを含む曲面は,この機能によってローポリゴンに仕上げることが出来るわけです。
反射計算のからくりは,頂点法線です。
法線とは,曲面上のある点において面と垂直な直線です。光の反射は光の入射角と面の法線の角度の関係で決まります。
ポリゴンでは,三角形の3つの頂点がそれぞれで法線の向きを持っています。これを頂点法線といいます。
スムージングでは,ある頂点に集まっている面から,中立的な法線の向きが自動設定されます。そして反射計算に使うポリゴンの内部の点における法線は,ポリゴンの3頂点の法線の向きで補間しています。このようにして滑らかな曲面であるかのような反射計算が行われます。(データの節約にもなります。)
手動で各頂点に法線向きを個別設定することもできます。面同士の特殊な合わせ目では手動で法線設定をすることがあります。
このほか,異なる複数の頂点を同一座標に重ねることでスムージングの計算をハックすることで望みの見た目を作ることがあります。モデリングツールのテクニックのほか,objのデータ仕様が背景知識として望ましいのですが,細かくなりすぎるのでここでは省きます。
テクスチャマッピング
ポリゴンそのものは色や模様を持ちません。ポリゴンにテクスチャ(模様)を貼り付けて模様や色を付けます。
ポリゴンで作り込みきれない細かな凹凸や,シェーダーに表現しきれない陰影の表現は,テクスチャで表現すると,ローポリでもリアリティのある車両モデルが作れます。
しかしテクスチャの仕込みがVRM自作車両の難易度が上がるポイントの一つです。
VRM自作車両は,マッピングに使用できるテクスチャの枚数と大きさに強い制限がかかっています。
- メインテクスチャ256x256 or 512x256 (1枚)
- 車体全般(台車・車輪・パンタグラフを含む)のテクスチャに使う
- ユーザーテクスチャ 128x128 (1枚)
- ユーザーが書き換え可能。方向幕などに使う
合計2枚でなんとか作らないといけない上にサイズも小さいため,必要なテクスチャを必要な解像度で盛り込むためには,ポリゴンで見た目を整える箇所と,テクスチャの芸当で見た目を整える箇所を,全体的なバランスが成立するように最初から想定しておく必要があります。
とくに,台車・車輪については,複数形式で共通の場合が多いですが,モデルを使い回すためには,各車両のテクスチャに共通で同じ場所にテクスチャが割当たってっている必要があります。
自作車両製作プロジェクトの始めかた
対象車両の選定
何を作るかを決めないことには何もできません。対象車両は次のような観点から総合的に選定する必要があります。
- 自分が十分作りたい(情熱が注げる)か
- 資料が十分集まるか
- 製作難易度は自分の実力に見合うか
完成に漕ぎ着けるまでに必要な作業が非常に多いため,自分の情熱が完成まで持続するかどうかは重要です。好きな車両,思い入れのある車両かどうかは意外に大きな要因となるでしょう。
また,資料収集性も重要です。VRM4以降の公式車両と釣り合う品質を目指すと,そこそこ細部までディテールを追わなければなりません。過去の(今もういない)車両の場合は集められる資料に限界があります。ただでさえ,現在走っている車両であっても,台車,床下,屋根上などの資料は不足しがちになるため,自分の足で稼ぎきれない過去の車両は製作の難易度が上がります。また,居住地から遠い地方の車両も難易度が上がります。
また,作る車両を決めたときにある程度難易度が定まってしまう点にも注意が必要です。箱型で平面的に構成された車体であればそこそこ易しいですし,流線型の車体は難易度が急激に上がります。
ただし,自分の実力よりもやや上までの難易度であれば,情熱が自分の実力向上の追い風となります。
製作難易度の見極めに悩む場合
そこそこ一通りのポリゴンモデリングができる状態になっていれば,「○○系は自分の実力で作れるだろうか」という見極めをするのに,モックアップを作ってしまうという手があります。
この後の資料収集や工程編成を一回飛ばして,寸法は完全にメノコでいいので,先頭車の前頭部を仮組みしてしまうのです。これがモックアップです。
大抵の場合,車両の「顔」の印象を決めるのは前頭部です。しかも,意匠的に凝った作りになっているため,モデリングのそこそこ大きなハードルになっています。ある程度ここの形状がポリゴンモデリングの技術的に自分の思うようにできそうであれば,他の工程は(技術的には)なんとかなるという自信が持てます。
後に本制作に入るときはモックアップは一旦脇において,イチから作り直しましょう。
資料収集
鉄道ファン等の雑誌についている図面(形式図)は製作上の大きな助けになりますが,それだけでは作れません。大量の写真資料が結局のところ重要になります。
図面資料,写真資料の収集は,大まかに3ステップで考えることになります。
- 日常から集めておく。
- 事あるごとにいろんな形式の車両を撮影して写真資料をストックしておくと,いつか使える(かもしれない)。
- 製作開始前に揃える。
- 形式図などの図面資料は製作開始までに手元にあれば十分なので,やる気が十分に高まってから揃えればよい。
- インターネット上にも多少の役に立つ写真資料はあるので,どのサイトにどんな資料があるかの見当を付けておくといい。
- 製作の中盤以降で足りない部分の写真資料をもう一度集めに行く。
- 製作がある程度進むと,「当初は見えていなかったけどモデル上必要な部分」が見えてくるようになります。そのような不足している部分の資料はインターネットでは通常見当たらないので,自分で稼ぎに行ったほうがマシです。
自作車両制作プロジェクトの進めかた
工程編成
ポリゴンモデリングの作業では,後戻りをすることが現実的にも精神的にも難しい場合が多いです。したがって,できるだけ後戻りが生じないよう,一本道で出来上がるように作業の順序を事前にある程度想定しておくとよいです。
一例としては,
- ボディ素組(直方体を車体断面の形に整形して,長さを車体長に合わせる)
- 帯状塗装の境界(帯状の塗装の塗分け境界は,先にポリゴンを切ってしまったほうが楽)
- 分解(屋根・側面・妻面・前頭部にバラす)
- マド開け(窓や扉やライトユニットなどの開口部のポリゴンを切って,凹ませたり別オブジェクトに分けたりする。)
- 前頭部作り込み(ここで見た目の印象が決まる。)
- 台車・車輪(VRM自作車両としてビュワーで確認するのに台車・車輪が必要)
- このあたりでマッピングテクスチャの大まかな構成を決める。
- テクスチャができたところからペタペタとマッピングする。
- パンタグラフ(からくり機械みたいで難しい)
- 床下機器(黒っぽい箱だと諦めきれない微妙な箱が難しい。)
- 屋上機器(クーラー,無線アンテナ等。モデリングはあんまり難しくない)
- 室内モデル素組(運転室・客室等,区切られている空間は各々で直方体から作った方がいいかもしれない)
- 室内モデル穴あけ(内側から外を見る穴を開けておかなくてはいけない)
- 室内ディテールパーツ(運転台・座席等)
- 外構ディテールパーツ(追い込みたいところまで追い込む)
先行関係のない作業同士はパラレルで進めることもありえます。
しかし,イッパツでこの一本道工程を頭の中で計画して,後戻りなく遂行することは現実的には不可能です。「5.前頭部作り込み」あたりまでなら,1度白紙に戻すことがあってもよい,くらいの覚悟でいたほうがよいです。ある程度作業が進まないと見えてこない工程もあるためです。
いくら工夫しても,多少の後戻りはどうしても発生してきますが,どの程度の後戻りであれば白紙にせずにリカバリが出来るか,はポリゴンモデリングの実力次第です。
マッピングテクスチャのプランニング
先述のようにVRM自作車両は,マッピングに使用できるテクスチャの枚数と大きさに強い制限がかかっています。
- メインテクスチャ256256 or 512256 (1枚)
- ユーザーテクスチャ 128*128 (1枚)
合計2枚にうまく必要なテクスチャをペタペタと割り付けます。
大抵の場合,先頭車は,中間車よりも多くのテクスチャ領域を必要とします。必要領域の差を考慮して,中間車は256x256, 先頭車は512x256でテクスチャを構成できると理想的です。必ずしもここまで細かく考えなくてもいいのですが,VRAM(ビデオメモリ)の節約に有効だと考えられます。
継続のコツ
とにかく出来るところから作業をし続けることです。どこをやるか悩む前に,手戻り覚悟でどこでもいいからやる。
大抵は手戻りにならずに済むし,手戻りになったとしてもモデリング技術の練習として自分の経験値になります。
9割位で完成とする
作業終盤で追い込み始めるとどこで手を打ったらいいかわからなくなります。適当なところで終わりにしたほうがいいと思います。
107系は車内をやる気力と技量が不足していたので,VRM3車両のように外装だけで済まし,内装はテクスチャ表現のままでリリースしました。まあ9割にも届いてませんね。
731系は,9割位の完成度で一度公開しました。その後,兄弟形式のキハ201系の製作のタイミングで所々のディテールアップを行い,その結果を731系にも反映して再リリースしました。
ツールの選定
ポリゴンモデリングツール
VRM向けの自作車両を作るだけなら,モデリングツールの選定や,使い方の習得に金と時間をかけすぎるのはハッキリ言ってあまり価値がない(と思います)。
結論だけ言えば,Metasequoia有料版をポチッと早く買うのが,利便性とコストとかかる手間のバランスを考えて最適だと思います。(I.MAGICの中の人はあまり好きではないという噂もありましたが。)
画像編集ツール
ポリゴンモデリングのツールよりは,裾野が広くて選択肢も広いと思います。私はPhotoshopです。GIMPなどのフリーウェアでもいいかもしれません。
昔,IllustratorとPhotoshopを行ったり来たりして作業いた頃もありましたが,Photoshopだけで最初から最後まで書き上げるやり方に変わりました。
おわりに
ここで紹介した考え方や方法は,あくまでAKAGIの一意見にすぎません。実際は人によってさまざまであるはずです。したがって,ここに書いたやり方を他人に強制するつもりではありません。(誰か他人に全く役に立たないというわけでは無いにせよ,です。)
どちらかというと,「AKAGIはこう考えてやったけど,他の人どうよ?」という趣旨が強いです。他の方からいろいろな方法が出てきたら,共通項や差異があることによって,より情報の価値が高まるのではないでしょうか。